タクミシネマ                    カーテンコール

 カーテンコール    ナンシー・メックラー監督 

 イギリスにおけるバレエのダンサーたちの物語なのだが、この世界にはもともとゲイが多い。
他界した有名人を見ても、ヌエレフにしてもジョルジュ・ドンにしても、みなゲイだった。
デザイナーやその手の他の職業に比べても、国を問わずなぜか、ダンサーにはゲイが多い気がする。
劇場パンフレットから

 主人公トニオ(ジェイソン・フレミング)のバレエの師であり、恋人でもあったラモン(アントニー・ヒギンズ)のベットから話は始まる。
すでにエイズが発症しており、命は時間の問題になっている。
ラモンの属したバレエ団は、ラモンが抜けたことや新たな指導者を欠いたことから、存亡の危機にたたされていた。
そのうえ、団長ルナ(ドロシー・テューティン)もアルツハイマー症で、劇団の先はない。

 このバレエ団はゲイによって発展してきた。
それに感謝するというのルナの意志で、劇団の最後の公演として、
ラモンも踊ったことのある「インディアン・サマー」を上演することにする。
このバレエはゲイの話で、その主人公をトニオが演じる。

 バレエの話と、トニオの新しい恋愛とがからんで映画は展開する。
トニオの新しい恋人は、ラモン(アントニー・ヒギンズ)も相談にいったセラピストのジャック(アントニー・ヒャー)である。
もちろんジャックもゲイ。
トニオがHIVの陽性だと知っても、ジャックは恋人になる。
しかし、陰性の彼は近い将来に恋人を失うかも知れない不安と、
自分がセラピストとして現実の出来事に無力なことにイライラしている。
しかもジャックは、HIVの患者たちの相談にのって自分は生活費を稼いでいるジレンマに呵まれる。

 この映画は、ダンサーを主人公にしているが、本当の主題はゲイの恋愛映画である。
ここでは男性のゲイが主人公になっていたが、
トニオの親友の女性ミリー(ダイアン・パリッシュ)はやはりゲイで、女性しか愛せない。
だからゲイは男性に限るわけではないと言ってはいるが、
女性のゲイが主人公になるほど、まだ女性のゲイは多くはないようだ。
トニオとミリーが、ベットに入るシーンがおかしかった。
異性のゲイ同士で、ちっとも盛り上がらずセクシーにならない。

 異性愛をあつかった恋愛映画は、たとえ主人公が美男美女であっても、観客は主人公に自分を引きつけて画面に同化できる。
しかしゲイの場合は、二人の関係に他人が感情移入できず、関係が閉じられている感じがした。
そのために、画面から観客が拒否されてしまう感じがする。
こちらがストレートのせいかも知れないが。

 一般論としても恋愛感情は生殖行為を含んでいるので、他人を排除するものではある。
それまで同性の友人同士であっても、異性との性関係が始まると、種社会からは背を向け、二人で生殖活動に入る。
だから、元来が恋愛とは反社会性をもった感情なのだが、
男女間の恋愛感情は見慣れているのと、生殖行為をともなうがゆえに生殖活動期を過ぎると、
当人たちは社会に戻ってくるから、二人の関係は永遠に閉じてはいない。

 ゲイの場合には肉体関係があっても、生殖という生理的な基盤を欠いており、
きわめて観念的な関係である。
ゲイには自然の支配が及ばず、意識だけが二人の関係を支配しているから、二人の意志が強ければ強いほど他人を排除する。
二人の関係には誰も立ち入れず、恋愛の反社会性が強く表現されてしまう。
それをこの映画では強く感じた。

 トニオを演じたジェイソン・フレミングがダンサーではなく役者のため、ダンスシーンがそれらしくない。
最初のシーンでは、壁に飛んでいるが、まさに飛び蹴りで、ダンサーの身のこなしではない。
半年や一年の訓練でダンサーになれるわけが無く、映画の中でも踊るシーンがほとんど無い。
それは仕方ないが、むしろ最後の他の団員に支えられての上半身だけのシーンは、役者であるだけにうまかった。

 1996年のイギリス映画でありながら、マーティン・シャーマン脚本、ナンシー・メックラー監督と両方ともアメリカ人である。


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