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18世紀のイギリスで、国王ジョージ三世(ナイジェル・ホーソーン)が精神病になった。彼の発病にまつわる話を、コメディー風に展開している。いかにもイギリス流のシニカルな映画である。 イギリスはアメリカとの戦争に負け、アメリカの独立を許してしまった。そんなとき、親政をしいていた国王ジョージ三世が発病した。彼は妻シャーロット(ヘレン・ミレン)との間に15人の子供をもっていたが、息子(ルバート・エヴェレット)に王位を譲る気はなく、いまだ現役だった。 皇太子はいつまでも王座に居座る父親にイライラしていた。そこに発病である。後を狙う息子の皇太子と、議会の反対派が組んで、政変を起こそうとする。政変が起きると、閣僚たちの首が危ない。そうした思惑が入り乱れて、議会ではてんやわんやが始まる。 国王という絶対権力者が、その職務を遂行できなくなったとき、権力の集中がもたらす負の面が噴出し、悲喜劇が露になる。最高権力者といっても、選挙で選ばれたわけではなく、血筋という生まれによるものであるため、代替がきかない。彼の体自体に権威があるために、他の人たちは手出しができない。 いままで彼に仕えてきた人たちは、その絶対性に従属していたがゆえに臣下であった。発狂した王を止めるためには、彼以上の権威を体現せねばならず、それは臣下でなくなることを意味する。いままでの臣下には、国王をいさめることはできないことだった。 そこに国王を国王と見ない医者ウィリス(イアン・ホルム)が登場した。彼には王の権威は通ぜず、ただの患者として扱うがゆえに、国王も自らの身体を任せる気になる。この医者が無資格であることに、新たな権威が誕生するメカニズムが良く表現されている。有資格者は体制内存在であるから、体制を越えた新しい状況には対応しがたい。 この脚本は、権力のあり方にたいして、実に冷静な目がある。権力者が病気になると、現代でも同じことが発生するではあろうが、体に権威があるものと、選挙で選ばれたものと言うところが違う。血縁による権威の継承は、新たな時代に対応できなかった。王制は倒れるべくして倒れたのである。 この映画の主題は、最後の「幸せに見せればよい、それが仕事だ」という国王の台詞に集約される。政治や権力がどうあろうとも、王の外見的なポーズが、支配を支えるのだという政治哲学が皮肉られている。こうしたシニカルな目はいかにもイギリス的で、この映画はアメリカとの合作となっているが、こうした見方の映画はアメリカでは作れない。アメリカでは、努力が政治を変える幻想があるから、シニカルな目が育たない。 世襲がいかに権力を腐敗させるかの典型的な話で、権力争いがいかに激しくとも、選挙によるものがどれほど健康的か判る。この映画は、有効な王制批判になっていた。しかし、映画は最後になるまで主題を明らかにせず、最後の最後にほんの数分だけで、ちらっと見せる。最後の国王の台詞だけのために、あれだけお金をかけたのかと思うと、イギリス人の発展性の無さには唖然とするばかりである。ウイット、シニカル、こうしたものは楽しいスパイスにはなるが、何かを生む源にはならない。 映画は昔の衣装や風景を再現し、豪華絢爛に展開する。アメリカ資本がバックについているからだろうが、イギリス人達はやりたいようにやっていた。大人の映画といえば大人の映画だが、世界性はないだろう。それでもこうした目をもっているところが、イギリス人の存在理由だろう。久しぶりに見た面白いイギリス映画だった。原題は 「the madness of king george」。1996年イギリス・アメリカ映画。 | |||||
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