タクミシネマ                    バウンド

 バウンド  アンディ&ラリー・ウォシャウスキー監督

TAKUMI−アマゾンで購入する
バウンド [DVD]
 コーキーは窃盗のプロだったが、相棒に裏切られて逮捕され、五年間の刑務所暮らしをして出てきたばかり。
いまは建物の室内改装屋をしている。
あるアパートの1002号室へ仕事に来たところ、隣の1003号室に住むカップルと、エレベーターに乗り合わせた。
カップルの女性ヴァイオレット(ジェニファー・ティリー)が、コーキーにねっとりとした視線を投げかけ、この二人の関係が始まることを予感させる。

 コーキーが1002号室で仕事をしていると、壁越しにヴァイオレットのよがり声が聞こえてくる。
それには彼女は大した興味も示さず仕事を続けたが、やがてヴァイオレットから誘いがかかる。
男とも付き合い、コーキーも誘惑するヴァイオレットに少し抵抗を示す。
しかし、ヴァイオレットは本当はゲイなのだが、ビジネスとしてマフィアの手下シーサーの情婦になっており、男との性交はビジネスだという。
コーキーもゲイであり、二人はたちまちベットへ。

 ヴァイオレットが、男の相手をするのはビジネスだと言う台詞には考えさせられた。
彼女は男性との性交でも、充分に快感を味わっている。
それはおそらく演技だけではないだろう。それでも同性指向というのは、何がそうさせるのだろうか。
性交や同居がビジネス、でもただの売春婦とは違う。

 結婚制度が崩れ、同棲と結婚のさかいが曖昧になってきた。
男女が同居している形式では、その人間たちの精神的な繋がりを何も表さなくなった。
結婚=堅気、内縁=アウトローといった区別がない。
女性にとって男性との同居は、性のサービスを伴ったビジネスになっている。
ここでは同棲=結婚と売春との、形式上の違いがない。
女性の体を買う人間がいれば売るが、精神的な関係は別というのは、何か江戸時代の花魁を思い出す。

 ヴァイオレットの相手はマフィアの手下で、集金してはそれを親分に渡している。
途中それを着服しようとした男が、拷問の末に殺されて、マフィアの恐ろしさが確認される。
今回も200万ドルを取りに親分が来る。
シーサーに飽きていたヴァイオレットは、コーキーにそれを盗もうと持ちかける。
相棒の裏切りで5年間の服役をしてきたコーキーは躊躇するが、ヴァイオレットに押し切られて実行に及ぶ。
マフィアに内輪もめをけしかけてお金をくすねるのだが、犯罪のトリックはなかなか良くできている。

 アンディとラリーのウォシャウスキー兄弟が監督している。
いずれも男性の名前であるが、この映画で興味があるのは、ゲイの女性たちの性格付けである。
コーキーは痩せて小柄で入れ墨をしており、チンピラ的な風貌で積極的な女性である。
それに対してヴァイオレットは情婦になるくらいだから、官能的で肉感的な顔形である。

 コーキーが立ち役、ヴァイオレットが猫役といった感じがするが、展開はまったく違う。
コーキーが計画をたてお金を盗みはするが、コーキーを誘惑するのもヴァイオレット、盗みを持ちかけるものヴァイオレット、シーサーを殺すのもヴァイオレットである。
女性的なヴァイオレットが終始リードしている。

 リードする男性に受け身の女性という関係が一般的なので、つい女性同士でもそれになぞらえて理解しがちだが、おそらく男女関係をそのまま移したものではないだろう。
現実のゲイたちがどんな関係を作るか判らないが、人それぞれに様々にあるのだろう。
それでなくては、ただ男女関係の移し替えになり、彼や彼女たちの精神的な充実感がない。
ゲイとはきわめて精神的な関係だから。

 コーキーは鼻っ柱は強いが、小柄で非力である。
そのため、シーサーと格闘になると、たちまち打ち負かされてしまう。
格闘になっても、女性が強い映画があるが、あれは不自然である。
弱いコーキーでも、ヴァイオレットは魅力を感じている。
このほうが自然である。
シーサーがこんな女のどこが良いときくと、「Everything you can't do 」と答える。
こうしたやりとりが、リアリティを持つ現実があるのだろう。

 蛇足ながら、左手で握ると安全装置がはずせないだろうに、シーサーがピストルを左手に握っていたのには驚いた。
「 bound 」という原題は何を意味していたのだろう。
1996年アメリカ映画。


TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る