タクミシネマ                  シェフとギャルソン、リストランテの夜

 シェフとギャルソン、リストランテの夜 
   キャンベル・スコットスタンリー・テュッチ監督

 時代は1950年頃、アメリカ東部での話。
イタリアから移民してきた兄弟が、イタリアンレストランを開く。
兄プリモ(トニー・シャブール)がシェフ、弟セコンド(スタンリー・テュッチ)がギャルソンである。
太郎次郎のコンビといったところである。

 しかし、プリモの作るイタリア料理はイタリア過ぎてアメリカ人には不評である。
客が少ない日が続く。
同じイタリア料理でも、近所にあるパスカルの店は大繁盛している。
パスカルの店では郷土のイタリア料理そのままではなく、アメリカ人向けに変えてある。
だから繁盛しているのだが、プリモにはそれはイタリア料理への冒涜とうつる。

 断固として自分の料理を曲げないプリモに手を焼きながら、その正当性=素晴らしさを理解しているセコンドは、借金の手当にかけずり廻る。
パスカルにも借金にいくが断られる。
そこでパスカルはルイ・プリマが当地へ来るから、兄弟の店に呼んでやると言う。
それが宣伝になって客が来ると約束する。
それを真に受けた彼等は、ルイ・プリマのために、最後の晩餐のような豪華なパーティを開く。

 8時から始まるパーティのために兄弟は、全身全霊をつぎ込んで準備をする。
しかし、パーティが終わってもルイ・プリマは現れなかった。
パスカルが、イル・プリモには連絡してなかった。
2人の才能を認め、彼等を自分の店にスカウトしたいパスカルは、2人を破産に追い込んだのである。
パスカルは2人を愛しているが故の行動だという。

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前宣伝のビラから

 イタリア人の理想と考える料理から路線の変更ができずに、アメリカから落ちこぼれていく兄弟たち。
アメリカへ移民してきた兄弟たちが、アメリカ文明との段差に戸惑い悩み、挫折していく様を、映画は料理を通して語る。
イタリアという農耕社会で形作られた料理は、アメリカ人の口には合わない。

 プリモにはそれを変えることは神への冒涜とすらみえる。
シェフ プリモは、アメリカ人はイタリア料理の何かを判ってないから、自分が教育してやるんだという。
イタリアから自分をスカウトする声がかかっているし、自分の料理はイタリア人には評判が良い。
だから、自分は料理の才能がある。
悪いのはアメリカ人たちだ、と彼は考えている。

 アメリカには多くの移民たちが渡ってきた。
イギリス、ドイツ、オランダ、イタリア、東欧、中国、その他たくさんの国からの移民が多い。
白人の中でも、プロテスタント系のイギリス人やドイツ人は、アメリカ社会のメインストリームを形成した。
カソリックのイタリア人は熱き家族愛や兄弟愛をもって、アメリカの主流には入れなかった。
そこでは彼等は、裏の主流であるギャングの世界を築き上げるのだが。

 アメリカの主流に入れなかった人々はたくさんいるが、有色人種は最初から主流になれるとは考えてない。
だから、自分たちが理解できる人と、アメリカの中に小さな社会を作ろうとする。
イタリア人はかっては偉大な文化を誇った人種であり、白人社会の正規の一員だと考えているから、アメリカ社会が受け入れないことに抵抗感が強い。

 自分たちの文明を至上のものとして、それを他のアメリカ人たちにも強要することになる。
しかし、イタリア文明は農耕社会の上に花開いたものであり、映画当時の工業社会のアメリカでは受け入れ難いものだった。
そこで成功するためには、何らかの加工が必要だった。その加工を潔しとしなければ、アメリカ社会には参入できなかったし、反対にその加工に成功すれば社会的な出世が約束されていた。
この映画は、そうした文明のせめぎ合いの中で、人々が翻弄されていく様を淡々と描いている。

 映画としてはやや暗い画面ながら、物語構成がきっちりとできており、ゆったりと見ることができる。
最初のうちは内気なプリモの恋やセコンドの女性関係など、面白く見ていられる。
しかし最後になって、主題がはっきりすると、ずっしりと沈んだ気持ちになってしまう。
パーティが終わって兄弟が無一文になったとき、パスカルが「わしはビジネスマンだ。金になることならんでもやる」と言う。
競争の社会である。
資本主義は、孤立した民族的特質の存在を許さない。
それが何ともやりきれなく、現実はその通りと判っていても、後味の悪い映画になっている。

 イザベラ・ロッセリーニは相変わらず妖艶な魅力いっぱいである。
しかし、パーティの翌朝、兄弟二人が朝食を食べる最後の画面は、救いがなくて本当に悲しい。
「Big Night」が原題である。
1996年アメリカ映画。


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