タクミシネマ 　 　　　　　　　　　　　　　　 　　ビューティフル・ガールズ

　彼らは２９才。
すでに結婚して２人も子供がいる男もいれば、恋人がいながら人妻となった昔のクラスメートと付き合っている男(マット・ディラン)もいる。
恋人と喧嘩している男もいれば、恋人すらいない男もいる。
顔見知りばかりの小さな町の中で、昔からの変わらぬ生活をしている。
田舎は肉体労働が主で、新たな刺激はない。
田舎の生活は変化が少ない。
妻に先立たれた彼の父は、テレビを見る毎日。
弟は、何もしないで家にいる。

　そんな彼には、美人弁護士の婚約者がいるが、いまいち結婚への踏ん切りがつかない。
クラス会にかこつけて、その心を見きわめるための帰省である。
そして、恋人を自分の家族に引き合わせる目的もある。
彼の帰省は、同級生たちの格好の暇つぶしになって、様々な話題を提供する。

　都市生活が身についた彼は、田舎では少し場違いな雰囲気である。
しかしそれは、同級生だからたちまち昔の日々がよみがえる。
遅くまで飲み明かして旧交を温める。
そこへ偶然、同級生の美人従姉妹(ユマ・サーマン)が、シカゴからくる。
彼らはたちまちのぼせ上がるが、彼女も繊細な心の動きをもった都会人。
都会に残した恋人を思い出して、予定を繰り上げて帰っていく。

　田舎には、彼の心をいやしてくれる人間関係がある。
人妻と浮気をしている友達が、旦那とその仲間に暴行されると、何をおいても飛んでいって、殴り返そうとする男の友情がある。
彼はそれにいささかの抵抗がありながら、やっぱり復讐に参加してしまう。
いざ相手の男を殴るところで、浮気相手の小さな子供が出てきて、何もできなる。
全員そのまま引き上げてきてしまう純情さ。

　人妻と浮気を繰り返す男に、惚れぬいている女の子が、とうとうその思いをとげる風景。
隣家に引っ越してきた、賢く早熟な１３才の女の子が、田舎で浮いている様子。
年齢を越えて、そんな少女に好意を持ってしまう彼は都会人。
田舎は、男性と女性の役割がはっきりと分かれ、男は逞しく女は優しい社会。
けれども濃密な人間関係は、新しい世界を知った人間には、いつも心地よいとは限らない。
田舎の人は、都会にたいして憧れと反感、そして拒絶を内心する。
都会人は、その距離感に心を痛める。

　そこへ、彼の恋人がくる。
彼女は彼の父と弟のために、食事を作ってくれるが、二人はもうそれだけで大感激。
都会で弁護士をする彼女は、サーブに乗ってくる。
田舎では誰もそんな車には乗ってない。
線が細いけど、あかぬけした二人は、やっぱり都会の人間である。
繊細な神経は、田舎の生活に耐えられない。
自然を相手の生活は、人間をも骨太にしていく。
彼は予定を繰り上げて、彼女と一緒に都会へ戻っていく。

　ビューティフル　ガールズが、どこからつけられた題名なのか判らない。
しかし、今がきれいなだけで許される、女性たちの最後の時代なのかも知れない。
男性の逞しさに対するものが、女性の美しさだった。
今後はきれいというだけでは、必ずしも魅力的な女性とは言えない時代がくる。
この映画は結果として、それへの鎮魂歌かもしれない。
1996年アメリカ映画。