タクミシネマ                    アンカーウーマン

 アンカー ウーマン    ジョン・アブネット監督  

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アンカーウーマン [DVD]
 ミッシェル・ファイファーが地方の短大から経歴を偽って、フロリダの放送局に雑用係の事務員として入社する。
そして、ロバート・レッドフォード演じる上司にかわいがられて、アンカー ウーマンにまで出世する話である。
話自体は、実にたわいない。
いくら彼女が美人としても、ありえないシンデレラ ストーリーである。
偶然と、無理を重ねている。

 ミッシェル・ファイファーが演じたテリー程度の、存在感やガッツを持っている女性はいくらでもいる。
たった一度の刑務所の取材がたまたま暴動にあい、その取材が認められて、IBSのメンバーになるというのは、アメリカでもそんなにうまくはいかないだろう。

 この映画は、ご都合主義の見本のような話である。
しかし、この映画が作られ、アメリカでそこそこにヒットしている背景には、考えさせるものがある。
やはり女性の台頭が、本物になってきたということだろう。
職業を持つことが当たり前になり、しかも、男性と同等にやっていくことが当たり前ながら、一人前の職業は男性に独占されてきた。
当初、男性を非難する、男性を攻撃するだけだった女性運動は、ここへ来て男性と協力することが、本筋だと気づき始めた。
男性を攻撃し、男性を敵にまわしては、女性の台頭は遅れるばかりである。

 男性社会は、アメリカでも権威の構造が縦に貫徹している。
それは工業社会までの、生産労働を遂行する上では、上下の組織を作らざるを得なかったからである。
それに対して、生産労働に従事しなかった女性は、そうした縦の権威感覚が身につかないまま、組織に組み込まれることなく生きて来た。
権威の秩序に鍛えられなかった女性は、結果として、権威に対して免疫ができなかった。
横並びのままで生活できたが、女性が横ならび意識のまま、生産労働の組織に入っていくことは、非常に困難である。

 情報社会は、縦の系列を崩し、人間をすべて横並びに置き換えるとはいえ、情報社会になって日の浅い今日、いまだ、工業社会の影響を引きずる。
だから、職場が男性に有利なことは、圧倒的である。
テレビのアンカーは、男女のペアーがなるという決まりだから、女性もアンカーになれるが、それを取り仕切っているのは、すべて男性である。
女性が、女性独自の新しい世界を作るのは、本当に困難な話である。

 ただし、テリーが男だったら、ディレクターにあれほど入れこまれただろうか? 
もっとも、ゲイだったらということはあるから、いやむしろ、今のアメリカでは、放送界もゲイのほうが多いかも知れない。
いずれにせよ、人間が人間を育てるのだから、魅力を感じた人間同士が仲良くなるのは自然である。
ただ今後、性関係が仕事の上にも、直接影響を落とすようになると、職場はますます混乱するだろう。
公私の区分が変わっていく。

 まだ自分に何の能力もないうちから、テリーは鼻っ柱だけは強かった。
あんな突っ張った女がもてるのは、アメリカは日本と風土が違うといわざるを得ない。
ところで、性による差別つまり不利益の享受は、セクシャル ハラースメントに違いないが、性的な魅力による特定の人間の昇進も、他の人にとってはセクシャル ハラスメントではないのだろうか。
性的な魅力に劣る人間は、これでまた昇進の道が一つ減った。
個人化した社会で、職場への女性の進出は、様々な問題を引き起こすことは間違いない。

1996年のアメリカ映画


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