タクミシネマ          ユージュアル サスペクツ

 ユージュアル サスペクツ  
ブライアン・シンガー監督

 難しいサスペンス映画である。
もちろん最後まで、犯人は判らず、どんでん返しにびっくりする。
もう少しわかりやすく、整理して欲しかったというのが、頭の弱い観客としての感想である。
簡単な仕掛では単純だと文句をいい、複雑で高度なトッリクだと難しくて判らないと、これまた文句を言う身勝手な観客である。

 ロス アンジェルス港で起きた27人の殺人と船の爆破事件が、まず画面にでる。
そして何のことわりもなく、その何年か前、ニューヨークで銃がつまれたトラックが盗まれる。
その容疑者として、いずれも前科のある五人が捕まる場面に戻る。
話は、そこから爆破事件まで、時間順に展開してくる。
銃の強盗事件は、証拠不十分で釈放されるが、ここで五人組のつながりができる。

 顔見知りとなった足の悪いヴァーバルが、堅気となっていたディーキンを再度犯罪に引き込む。
一度、強盗に成功した彼らは、コバヤシなる弁護士から、ロス アンジェルス港に停泊中の船から、麻薬と9100万ドルの強奪を依頼される。

 コバヤシが謎の人物=カイザー・ソゼからの依頼だと言うが、計画から降りた一人は殺され、ディーキンの奥さんは知らずにコバヤシに雇われる。
前科のある彼ら四人は、断れない状況に追い込まれていく。
27人を殺し、船を爆破し、強奪にはいるが、麻薬はない。
その船には、カイザー・ソゼの顔を知った、ただ一人の男が護送されている。
この襲撃で生き残るのは、四人のうち、足の悪いヴァーバルと船の乗組員一人である。

 物語の後半は、関税特別捜査官クイヤンの取調に対する、ヴァーバルの供述というかたちですすむ。
実は前半も、話はすべてヴァーバルの供述だったのかも知れないが、途中から供述になったように見えて戸惑った。
しかもその供述は、どこからどこまでが真実なのか嘘なのか判らない。

 供述自体に嘘がたくさん入っているので、観客としては筋を追いかけられない。
捜査官は、ディーキンが謎の人物だと決めて、ディーキン逮捕のための供述をとるが、実はヴァーバルが謎の人物つまりカイザー・ソゼ本人で、真犯人だという結末である。

 ヴァーバルを演じるケヴィン・スペイシーの演技が抜群である。
全体に人物のアップが多い画面なのだが、ケヴィン・スペイシーの顔の演技は、病的に不気味な静けさが漂い、恐ろしいまでである。
彼の日常はどうなっているのか心配してしまうほど、悪役ぶりが板についている。
また、他の役者たちも、押さえた演技でうまい。
難しい映画だが、全編をとおして、緊張した画面が連続し、若い監督のエネルギーを感じる。
長編映画が二本目という、ブライアン・シンガー監督の力量には感服である。

 サスペンス映画と言うのは、映画としての主張はなくても良く、ただ推理の展開に無理がなく、しかも意外性にとんでいればいい。
時代性だとか、難しい主張は不要でも、おもしろい謎解きを作るのは、それはそれで難しい。
初めから結末が判っても興ざめだし、無理な展開だとしらける。
もちろん娯楽性も兼ね備えたいとなると、脚本を書くのはなかなか難しい。

 この脚本も良くはできているが、骨太な展開より、ディテールに頼りすぎているきらいがある。
最初のライターをつけるシーンと、取調中のライターを落とすシーンは、関係があるらしいのだが、見落としてしまう。
また、犯人の似顔絵を取調の女性捜査官が口述から描きおこし、ファックスでおくる場面は、聞き取りだけで似顔絵が描けるのか不思議である。

 最も気になったのは、犯行の動機が事件の割に貧弱なことである。
犯罪の動機がはっきりしないので、話の展開をわかりにくくしている。
この強奪の目的は、強奪それ自体が目的ではなく、謎の人物=カイザー・ソゼの顔を知るたった一人の男の殺害だった。
しかしそれなら、なぜあんなに手の込んだ展開になるのだ。
五人組のなかに、最初から謎の人物がいるのだし、その五人組にコバヤシを介して依頼してくるとは不可解である。

 犯人捜しのネタは、奇想天外なほどおもしろいのだが、納得できる範囲内で話が展開しなければ、おもしろく感じないのも事実である。
そして、観客がついて来れる程度には、画面で説明しないと、理解できなくなってしまうし、監督たちの苦労が報われない。
玄人受けする展開よりも、平均的な観客に理解されないと、映画としては及第点ではないだろう。
良くできた映画で、監督の力量も敬服するが、この映画は難しすぎる。

 そうはいいながら、これだけの筋を考え、緊張感のある画面を作れる監督だから、次作も期待できることは確かである。
蛇足ながら、クリップルを、字幕で障害者と訳していたが、足が悪いことをあげつらっていたのだから、ここではビッコと訳すべきではないか。
1995年アメリカ映画


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