タクミシネマ          太陽と月に背いて

 太陽と月に背いて     アニエスカ・ホランド監督    

 ランボーとヴェルレーヌの関係を描いたもので、時代は1800年代も後半。
ランボーがヴェルレーヌに一通の手紙をだしたことから始まる。
農家に生まれた16才の少年が、詩を書く。

 教育が支配層に独占されていた当時、それもだけでも充分に驚きだが、一通の手紙だけでヴェルレーヌがランボーをパリに呼び寄せるのも驚きである。
以降ヴェルレーヌは、ランボーのスポンサーとして時折喧嘩もしたりするが、ゲイという恋人同士の関係を続けていく。

 ランボーは農家の出身だから、上品に躾られてない。
そして、自分の詩的な天分に自信がある。
傲慢な態度で、ヴェルレーヌのもとに登場する。
ヴェルレーヌは失業中で、裕福な奥さんの家に同居している。
奥さんは臨月で大きなお腹をしており、下品なランボーとは反りがあわない。

 奥さんのお父さんと喧嘩して、ランボーはたちまちその家をでるが、行くところはない。
ヴェルレーヌの援助によって、小さな屋根裏部屋に住むことになる。
ランボーの才能にいかれたヴェルレーヌは、奥さんを愛していながらランボーを理解しない彼女に暴力をふるう。
彼女をおいて、二人はベルギー、イギリスへと旅にでる。

 
劇場パンフレットから

 映画の中では、二人の詩はほとんど語られず、二人の関係の描写に終始する。
当時の詩の世界を軽蔑し、ランボーは新しい詩を次々と書くが、既成詩人たちは誰一人として、ランボーを理解できない。
映画ではヴェルレーヌには詩の才能がないように描いているが、実際には彼もすでに高名な詩人だった。
自分で新しい詩をかく才能はなくても、ランボーの詩才を見抜いたのだけでも才能である。
そして、自分の生活を崩壊させてまで、彼を支援した能力は大したものである。
やがてヴェルレーヌは奥さんと離婚する。

 ヴェルレーヌは、奥さんの心ではなく体を愛していると言うが、奥さんを演じた女性の体には驚いた。
着衣の時からは、想像もできないほど豊満な肉体である。
しかも実に豊満な体なのだが、若いにも似合わずやや肉が緩んでいる。
それは日本的な好色の世界ではなく、何か動物的な淫乱さを感じさせた。

 滑らかな肌をした肉体とやや弛んだ肌の肉体と、どちらが淫乱なのか判らない。
しかし、何かヴェルレーヌが言うのは判るような淫乱そうな体だった。
それに対して、ランボーがアフリカに行ってから、同棲している褐色の女性は、瑞々しいくらいに皮膚が張っていて好対象である。

 やや肉のゆるんだ豊満な体からは淫乱さは感じても、美しさは感じない。
しかし、褐色の彼女の肉体は実に美しかった。
どちらが性交に貪欲かはまったく判らないが、映画のなかでは性交が肯定的に描かれており、どちらの裸体も気持ちよく見た。

 洋服と肉体の関係は、西洋人たちが身につけた独特のものである。
ヴェルレーヌの奥さんの豊満な体が、洋服を着てしまうとむしろスタイリッシュで痩せてさえ見えた。
あの豊満な体が、洋服に良く似合うのにも驚いた。
洋服は西洋人の体によって発明されたものだ、とあらためて感心した。
それに対して、川久保玲の平面的な洋服は、やはり着物の影響だろう。

 たった三年間の詩作で、後世に名を残すランボーは驚くべき存在だが、それはヨーロッパが全盛を誇った時代の子であったためでもあろう。
天才は認められて、はじめて天才になる。
映画としては特別優れているわけではなく、レオナード・ディカップリオのしなやかな演技くらいが見物である。
ヴェルレーヌを演じた男性が、イギリスの舞台俳優らしく固い演技だったが、ディカップリオと対象的な面白さがあった。

 ヨーロッパ人がアフリカ人を見る眼は、人間ではなく動物を見るようである。
この映画でもそれを感じた。

1995年のイギリス映画


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