タクミシネマ           誘う女

 ☆ 誘う女      ガス・ヴァン・サント監督   

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誘う女 [DVD]
 この映画は、実話に基づいて作られたという。
テレビにでて、有名になることだけが、主人公の女性の生きるポリシーである。
それならなぜ、あんな平凡な旦那と結婚したのか疑問だが、それは問わないことにしよう。

 主人公の女性は、まず手始めに、地方局のお天気お姉さんになる。
沈滞した地方局の社員たちは、彼女の情熱を冷ややかに見ている。
日常業務を繰り返すだけの同僚たちを後目に、なんとかして中央へでようと必死の彼女は、高校生を描いたドキュメンタリーを手掛ける。
そこで取材相手になった三人の落ちこぼれ高校生に、テレビ出演に反対する夫を殺させる。

 映画ガイドやプログラムでは、テレビに出て有名になることに執着する彼女の精神を異常だといっていた。
しかし、彼女の有名病はなんら異常ではなく、有名になって注目されたいとは、多くの人が夢見ている。
彼女の夫だって、彼女の頑張り精神に惚れたのである。
陰徳を積むことを求める社会より、目的に向かって努力をしたら、素直に評価される社会のほうがはるかに健全である。
誰でも頑張れば、それなりの評価を受ける社会こそ理想である。

 彼女が異常なのは、自分の目的を果たすために、高校生をそそのかして殺人を犯させることである。
現実生活では、たとえ金が欲しいとしても、誰も他人の金を奪いはしない。
ましてや、金を入手するために、殺人をおかしはしない。

 貧乏だった時代には、犯罪の動機が物欲や金銭欲だった。
しかし、裕福な情報社会では、犯罪の動機が物欲ではなく、精神的なものへと変わった。
それが、評論家たちには見えていないから、有名病を罪悪視してしまう。
犯罪の動機が責められるべきではなく、殺人そのものが糾弾されなければならない。

 地味な作りの映画にもかかわらず、そして、一人での語りが多かったにもかかわらず、ニッコール・キドマンの演技は、だれさせずに実にうまかった。
彼女は美人で、スタイルが抜群で、演技がうまい。
神様は不公平である。
落ちこぼれの高校生役をやった男性(フォアキン・フェニックス)も、押さえた演技でよかった。

 ニッコール・キドマンのワンウーマン映画であるが、この映画で注目すべきは、きわどいシーンがたくさんありながら、ニッコール・キドマンが、一度も裸にならなかったことである。
ベットシーンは着衣のままだったし、吹き替えを使っただろう回想シーンは、瞬きする間ほどの短いものだった。
それでも充分に彼女はセクシーだった。
つまり、もろに裸を見せることが、セクシーさを感じさせることではなく、いかに性的な想像力をかき立たせるかが勝負である。
その意味ではいい手本だった。

 裁判が終わったときの記者会見で、ニッコール・キドマン演じるスザーン・ストーンが、夫はコカイン中毒で、そのもつれから高校生に殺されたのだ、と嘘を言う。
死者の名誉を傷つけた=家名を傷つけたので、旦那の父親が怒り心頭に発し、殺し屋をやって彼女を殺させる。
話しの前半に、イタリア人はマフィアかもしれないから、娘の結婚に反対したという台詞があったが、ほんとうに父親がマフィアだった、という恐ろしい顛末である。

 実話では彼女は、有罪になって服役中であるにもかかわらず、映画では無罪とした。
そして、マフィアの父親に彼女を殺させるのは、何が目的なのだろうか。
映画では、父親が報復のリンチ殺人が終わったとの報告を受けたとき、担当していた刑事がその父親の店で飲食中である。
あたかも治安機構がまったく機能してないから、自分で復讐することが正しいかのように描いている。
一女性の有名病による殺人より、リンチ殺人の肯定のほうがはるかに恐ろしいと思うが、誰もそれには触れないのは何故なのだろうか。
1995年アメリカ映画。


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