タクミシネマ           KIDS-キッズ

KIDS-キッズ         ラリー・クラーク監督

 ニューヨークの中学生テリーとキャスパーは、仲良しの友達である。
テリーは若い男性の常として、寝てもさめてもセックスのことが頭から離れない。
それは異常でも何でもないのだが、このテリーが異常なのは、処女とのセックスが好きなことである。

 12才の女の子を口説いて、セックスをすることから、この映画は始まる。
WASPふうの彼は、まめに女の子を口説いてはセックスをする。
そして女性もまた性的な動物であることを、キャスパーに吹聴する。

 たくさんの女性とセックスをしてみたいと思うのは、男性の願望だろう。
が、処女を専門にねらうというのは、なぜなのだろうか。
むしろ、若いときにはセックスそのものに興味があって、処女かどうかは余り問題にならないと思うのだが。

 中年以降の男性が、女性への征服欲を満たすため、処女を指向したがるのではないだろうか。
映画としては、処女をねらわなくても、主題は充分に成立するのだから、この設定は不要だと思う。
むしろ女性であれば、誰でもおかまいなしにセックスするほうが、この主題にはあっている。

 思春期の子供たちが、男性同士で女性同士で性の話しをする。
これは世界共通である。
こうした子供たちに、性の手ほどきをする道があった農耕社会とは異なり、情報社会は個人化しているので、子供たちはただ放置されている。

 そこで子供たちは、短絡的に大人の世界を、興味にまかせて、そのまま実践しようとする。
大人でも生きていくのが大変な時代、子供たちに自力で良識をつくれと求めるのは無理である。

 本人は知らないが、テリーはHIVの陽性である。
にもかかわらず、セックスの相手を捜して徘徊する。
初なジェニファーは、たった1回テリーの相手をしただけで、自分もhivの陽性反応者になってしまった。
それに対して、8人も9人もの経験がある女の子は陰性。
ここがこの映画の教育的なところである。

 しかし、この映画は説教臭をださず、たんたんと進んで行く。
テリーとキャスパーは、あちこちで悪さをしながら、毎日を過ごしているが、その毎日が淡々と画面に流れる。
ある家で両親が出かけている晩に、子供たちだけで集まって、パーティーをひらく。
そこでは、目いっぱい大人に背伸びした子供たちが、お酒、マリワナ、セックスといった禁断の世界に遊ぶ。

 この映画が不思議なのは、現代の子供たちを描きながら、子供の生態には否定的なことである。
もちろん、子供のセックスやお酒を肯定する人は誰もいないだろうが、こうした映画は社会が悪いのだから、その影響下にある子供たちが非行化するのは、仕方ないんだと正当化することが多い。
けれども、この映画は大人との関係や、大人社会からの影響はほとんど語らない。
ただ、子供の社会をそのまま描く。

 子供たちが動きまわりながら、無気力というか、虚無的というか、場当たり的というか、充実感に欠けていることを、たんたんと描く。
キャスパーは、眠っているジェニファーを犯した後で、自分がHIV感染者だと知らされ、始めて現実感に撃ちのめされる。
観念だけが先行して、それがよって立つ現実を確認することができない子供たちは、現実からの負の報復を受けて始めて、負の充実感にめざめる。
しかし、この時はすでに遅い。

 子供を非行化させない方法。
それはなんでもいい、何か達成感を感じさせることである。
受験戦争のように競争ではなく、個人的な個性を伸ばせる世界を見つけることである。
充実感に欠ける子供の生活に、正の充実感や達成感を感じさせてやれば、子供の瞳はたちまち輝くと思うのだが。
1995年アメリカ映画。


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