タクミシネマ           ジェフリー!

 ジェフリー     クリストファー・アシュリー監督

 テーマは明白、ゲイの男性がエイズが恐くてセックスができない。
セックスと恋愛は同じことだから、セックスなしの恋愛なんて考えもしない。
恋愛ができないのは、愛情が歪んでいる、つまり正確な知識と愛情が不足なのだという映画である。
実にまじめなしかも重い主題を、コミカルに取り上げてくれる。
映画の出来不出来をいう前に、作った姿勢に賛嘆の声をあげたきり、何も言えなくなるほど超まじめな映画である。

劇場パンフレットから

 主人公ジェフリーは、エイズが恐くてセックスをしない決意をする。
しかし、恋愛はしたい。理想の男性に巡り会いながら、自分はHIVポジティヴだと告白されたとたん、エイズが恐くてすくんでしまう。
ゲイの友達たちに励まされたり、脅かされたりしながら、最後には何とか恋人との関係も回復できる。

 ひるがえってわが国では、エイズは他人ごとで、ゲイなどまったく理解の外である。
ゲイの台頭は、情報社会と裏腹の関係で、女性の台頭と同じことなのだが、それはまったく理解されてない。
女性の台頭はよいことだが、ゲイの台頭は唾棄すべきで、両者は関係がないことだと思っている人が多い。

 個化する社会になって、男性とか女性とかといった生物固有の属性によってではなく、個人的な関心で生きることができるようになった。
それが女性の台頭を生んだのだし、ゲイの台頭を生んだのである。
ゲイとは逸脱で、人間にあるまじき者と考えている限り、わが国の個化は進まない。
換言すると、情報社会から取り残されていく。

 この映画は、ゲイたちがHIVポジティヴを乗り越え、人間愛を獲得していくさまを、実に温かく描いている。
不治の病気、死の病気が移るかも知れないという危険を犯してまで、人を愛することの大切さを考える。
近代が生みだした人間愛なる概念が、エイズによって試されている。
試練にまじめに取り組み、人間の尊厳を守りとおそうとする姿勢が、映画には満ちあふれている。
人間愛が最終の理念だとすれば、エイズは最後の試練なのだ。

 ゲイの女性もいはする。
しかし、ゲイは圧倒的に男性に多い。
男性が現在の文明を築いてきたのであり、女性は支援者に過ぎなかった。
だから、エイズの犠牲になるのは、圧倒的に男性である。
男性が築いてきた文化が、本当に試されている。
死をも恐れない愛情が、人間関係を支えることができる。
血筋と家柄とかをこえて、愛情こそがすべてである。
愛情という当人の決断だけが拠り所とは、誰も言い逃れができない厳しい選択である。

 HIVポジティヴであっても、正確な知識さえあれば、愛すること=セックスするのは可能だと、映画は言う。
つまり情報社会の愛情とは、単なる感情や本能的な性欲の発散ではない。
きわめて繊細に相手を思いやった精神に基づいた理性的な情念である。
感情と理性が反対概念だった時代から、情報社会では感情と理性の合一が計られている。
農耕社会が感情を、工業社会が理性を要求したとしたら、情報社会は感情+理性が要求される。
ここで人間の全体性が回復される。

 アメリカでも、ゲイに対する偏見は残っている。
ゲイであることを公言できる所のほうが、少ないといってもいい。
ハリウッドは保守的だから、とくに嫌う。
そうしたなかで、この映画に出演することは、勇気が必要だったろう。
映画の完成度を云々する前に、経済的な損得を優先せず、自らの信念に忠実だった俳優や関係者に心から敬意を捧げたい。

1995年のアメリカ映画


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