タクミシネマ           フラメンコ〈第2回 アート・ドキュメンタリー映画祭〉

フラメンコ  第2回 アート・ドキュメンタリー映画祭
カルロス・サウラ監督

 ほとんどの映画は、筋と台詞があるものだが、この映画にはそれがない。
古い駅らしい大きな建物のなかで、フラメンコを踊る。
それが20景にわたって続く、ただそれだけである。
それが美しい色彩と光の演出によって続けられる。

 巨大迷路のようなところを、人が歩いているところから始まる。
その人たちは馬蹄形に置かれた椅子に座る。
その後ろには、それぞれ一人づつの人が立つ。
フラメンコが始まる。
誰かが歌い、誰かが踊る。
次の場面では、3人になったり10人になったり、ギターをもった人が出たりと趣向を変えながら、最後には無数の人が踊る場面を俯瞰しておわる。

 大きな障子のようなスクリーンに、後ろから光をあてる形式で、和紙のような感じの衝立だけが背景である。
時々使われる鏡が幻覚的な効果を生んで、印象的だった。
全編ただフラメンコの歌と踊りで、最初にフラメンコについての説明があるだけで、あとは何も台詞はない。
ただフラメンコが延々と続く。

 フラメンコを踊る人たちの体がとても美しい。
特に若い女性たちの、良く訓練されて引き締まった体が、気持ちいいほどに躍動する様子はなんとも形容のしようがない。
特に障子のようなスクリーンにシルエットだけを映す場面は、早くその踊り手を見たいという欲求さえ抱かせて圧巻だった。

 元来、歌とか踊りとかといった肉体によって表現されるものは、泥臭いものなのだろう。
今や、フラメンコも近代舞踊へと脱皮し、抽象化された形式の中で踊られているが、その台詞は実に泥臭い。
まさに農耕社会に生きる人の気持ちを歌ったものだ。
時代が変わっても人の愛情とは、そんんなに変わるものなのではないかも知れないが、踊りの力強さは別にして、台詞の内容は現代では時代遅れの感が否めなかった。

 一時、フラメンコは観光客相手の踊りに、なってしまった感があった。
しかし、アントニオ・ガデスなどの活躍によって、現代舞踊としてよみがえり、いまや世界に通用する。
たしかに踊りは、躍動感に溢れ、情熱的で、セクシーでさえある。

 スペインという国は、いまだ農耕社会の色彩が濃いのかも知れない。
かつての無敵艦隊を誇った時代から、すでに数百年たっており、西洋諸国といわれながらも工業国の主流ではない。
だから、古い感覚のこうした歌詞が、通用してしまうのかも知れない。
血湧き肉踊る映画ではないが、踊りが好きな人にはたまらない映画だろう。
1995年スペイン映画。


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