タクミシネマ           エキゾチカ

エキゾチカ     アトム・エゴヤン監督

 カナダの監督アトム・エゴイアンの映画である。
ペット・ショップの経営者トーマス(ドン・マッケラー)の密輸から話しは始まる。
ところがトーマスの立場と、話しの全体がつながってない。
彼がゲイであることも話しと関係がないし、バレエの劇場で最初に登場した税関の捜査官と再会、そして彼と一夜の関係を結ぶのも不自然である。

 エキゾチカというナイトクラブでは、舞台でストリップダンスがあり、その踊り子を五ドルで自分のテーブルへ呼ぶことができる。
踊り子の体には触ってはいけないルールである。
子供と奥さんを失った男性フランシス(ブルース・グリーンウッド)は、毎晩そこへ来る。
そして、同じテーブルに座り、同じ酒を飲み、同じ女性クリスティーナ(ミア・カーシュナー)を指名し、彼女と同じように時間を過ごす。
高校生の服装で登場するミア・カーシュナーは、色白でスタイルがよく新鮮な色気がある。

 踊り子を指名しない客は、ひとつのテーブルに一人で座り、舞台を見上げている。
5ドル払った客の前には、裸の踊り子が来て体をくねらしている。
そして、djのエリック(エリアス・コーティアス)ががなり立てている。
店内の内装は、熱帯地方を思わせ、不思議な雰囲気である。
店内は明らかにセットなのだが、このセットには随分とお金もかけ、力が入っている。

 このナイトクラブの舞台設定が、男性中心主義である。
現実的にも、こうした施設は男性専用だから、男性本意なのは当たり前かも知れないが、
現実の店は利益追及のはてに作られるから、もっと猥雑な雰囲気になる。
ところが映画のセットは、観念の産物だから、作者の作為がはっきりと表れる。
この映画のように、各テーブルに男性客一人と、女性の踊り子一人という設定は、女性の客体化の局限である。

 裸の女性が踊るエロチックな環境だが、性を扱う映画ではない。
この映画主題は、djやクリスティーナなど周りが、肉親を失ったフランシスの精神の癒しに奉仕するという、手のこんだ謎解きである。
それに男女の愛憎がからんでいる。
しかし、癒されるのが男性であることがどうも気になる。
男性監督が圧倒的に多いので、男性の精神が取り扱われるのかも知れないが、女性だって癒されたいことは同じだろう。
ところがこの映画では、男性を主体として扱い、女性は客体としてみている。
つまり男性には精神活動を認めて、女性には肉体しかないように扱っている。

 最後になって、クリスティーナはかってフランシスの子供のベイビーシッターをしていて、秘かに彼に心を寄せていたことが明らかにされる。
それで、フランシスの不思議な行動の種明かしがなされるのだが、映画としては途中がもたない。
なぜ、彼がこんな行動をするのか、観客には見当がつかない。
見当がつかなくても、興味を保たせてくれればいいのだが、話しの展開が遅くだれてしまう。
djの顔や無意味なシーンのアップや、フランシスが雨の道路に投げ出されるカットの長廻しなど、映画のテンポが鈍い。

 エキゾチカというクラブのセットの雰囲気に頼っており、人物の性格描写が不足している。
癒しという観念が先行し、話しが滑らかに流れていない。
精神的な傷がどう形成され、彼にどういう影響を与えているかの描写が弱い。
話しの成り立ちが、説明されないまま展開が進むので、観客は置き去りにされてしまう。
観念が未消化なままで、エキゾチカという怪しげな舞台設定を思い付いたとき、この映画が出来たように感じた。
1994年カナダ映画。


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