タクミシネマ           クロッシング・ガード

クロッシング ガード    ショーン・ペン監督

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クロッシング・ガード [DVD]
 時代は本当に変わりつつある。ジャック・ニコルソンが、子供を交通事故で失った父親を演じるのである。
しかも、子供を失ったがゆえに人格が保てず、離婚しすさんだ生活になり、加害者の出所を待ち、加害者を殺そうとする。
そこから映画が始まる。

 平穏に生活していた夫婦が、交通事故で子供を失う。
彼らには三人の子供があり、一番上の女の子エミリーが殺された。
それまで夫婦は仲良く、何の問題もなかったが、エミリーをことのほか愛していたジャック・ニコルソンは精神的に崩壊する。

 奥さんも同じように辛かっただろうに、彼は自分の辛さだけに埋没し、生活がすさんで、とうとう離婚にいたる。
奥さんは、再婚し二人の子供を育てているが、彼はそのまま立ち直れない。

 宝石店を営む彼は、毎晩酒を飲み、女を買って生活している。
彼の生きがいは、加害者に復讐することである。
そのために、カレンダーに出所の日を赤ペンで書き、その日がくるのを毎日数えている。
ジャック・ニコルソンは、あくが強い男性的な俳優で、子供への愛情におぼれる役など想像もつかなかった。
その彼が子供の復讐に燃えている。

 男性はいつも冷静で、克己心に燃え、弱音をはかないという期待される姿と、彼の姿は大きな落差を見せる。
そのために、酒場に出入りすのだが、この辺は納得できない。
男性性の崩壊が、酒と女に短絡するかどうか疑問である。

 五年の刑期をつとめて出所してきたにもかかわらず、加害者は罪悪感にさいなまれている。
罪悪感が彼を神々しいまでに鍛え、ジャック・ニコルソンよりはるかに懐の深い人間的として描かれる。
それはいいが、出所祝いのパーティーで出会った女性とたちまち仲良くなるのは、簡単すぎないだろうか。
加害者の精神性の演出が、難しかったのかも知れない。

 この映画のテーマは良く判る。
子沢山だった頃、子供が勝手に遊び回っていた時代と異なり、現代ではどこの家にも一人か二人しか子供がいない。
だから少ない子供が、大人の生きがいになっている。
子供の役割は本当に変わった。

 今や子供は大人の精神の糧である。
そこで子供を奪われると、人格崩壊にさえ至る。
しかも、女性ではなく男性がそれに耐えられない。
男性は観念で生きているがゆえに、精神的な支えを奪われると、人格が崩壊する。
これはきわめて現代的なテーマである。

 加害者が出所した日に、殺しに行ったジャック・ニコルソンは、愚かにも拳銃に弾を込めるのを忘れた。
加害者は逃げないし、警察にも届けないと言う。
ジャック・ニコルソンは、その場で3日間の猶予をやると言う。そして、3日後に再度来る。

 ジャック・ニコルソンの拳銃に対して、加害者はライフルを構えるが、撃たずにどこかへ走り始める。
途中バスに乗ったりしながら、加害者は走る。
行き先は子供の墓地である。
そこで、ジャック・ニコルソンは加害者を殺しても、何も解決しないと言うことに気づく。
彼と加害者が、二人で子供の墓にうなだれたまま、夜が明けていく。ここで映画は終わる。

 男性性の崩壊から、次の精神の支えが何かは、この映画では言っていない。
子供の存在意義の変化をとおして、男性社会が大きく変わっていく姿を、きっちりと映画にしていた。
こうした試行錯誤が、これからもまだまだ続くだろう。
1995年アメリカ映画。


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