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カップルズ   エドワード・ヤン監督、台湾

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 エドワード・ヤン監督の台湾映画である。
最近は、東アジアの映画が評判だが、転換期はどこも元気がいい。
この映画は、農耕社会から工業社会への転換点にある台湾の状況を背景に、若者の生態を描いている。
青春の鬱屈という個人的な問題を描きながら、台湾という社会の膨張エネルギーを感じる。
それほど台湾は成長期にあるのだろう。

 レッドフィッシュひきいる街の若者四人が、正業につかずに生活をしている。
工業化の著しい台湾では、金儲けのチャンスもたくさんある。
彼の父親は、相当な財をなしたが、女に入れあげて破産した。
ところがたった一年でそれを取り返して、再度財をなした。
しかしまた破産し、恐ろしいほどの美人と心中してしまう。

 そうした現実を見ている若者は、まじめにそして地道に働くことより、一攫千金を夢見る。
農耕社会では、金持ちは生まれつき金持ちであり、貧乏人が金持ちになれる可能性はなかった。
ところが工業社会にはいって、階層間移動が発生し、貧乏人も金持ちになる可能性がでてきた。
富の独占が崩れたので、拝金主義が発生する余地が生まれた。

 人は指示されたがっているというのが、レッドフィッシュの信条である。
自分の行動であっても、自分で決断を下せば責任を感じるが、他人の指示に従っている限り、後悔はあっても責任は感じなくてすむ。
だから、人は指示を待っている。この格言は一面ではあたっている。

 農耕社会では、毎年同じことをしていれば、生活はできた。
生活は繰り返しになり、決断というほどの決断をする必要がなかった。
工業社会は自然の支配を離れて人間の支配する世界である。
自分で決断をせねばならなくなった。
決断に慣れてない人は、決断の結果発生する責任が恐ろしい。
そのため、他力本願になりがちで、彼の格言が妥当する。

 若者の一人ホンコンが、自分に首っ丈な女の子を皆に紹介すると、他の男が彼女の体を求めて寄ってくる。
ホンコンは友達とは一身同体で、何でも分けあう仲だという。
もし自分と仲良くしたいなら、誰とも仲良くしてくれ、つまり友達たちの性交の相手をしてくれと頼む。

 レッドフィッシュが、他の連中とトラブルを起こすのは、ホンコンを苦しめることだと側面から攻撃する。
ホンコンの面子を立てて、仕方なしほかの男とも寝る。
西欧の女性なら、「ふざけんじゃないわよ」となって、恋愛自体が解消される。
しかし、この女性は個人が存在しない共同体の論理に生きるから、ホンコンのからめ手からくる義理と人情による強制に従う。
このあたりの心情は、我が国の女性も共感しそうで怖い。

 中年女性がこれと同じパターンで、反対に若いホンコンを女性三人でまわそうとると、彼は自我が崩れてしまう。
女性は肉体に生きるが、男性の自我は社会性の上に成り立っているという、このあたりの観察は鋭い。
しかしこれも、初期工業社会までの女性である。
いまや女性も経済力があって観念に生きているから、恋人のために好きでもない男と寝るなんて、冗談じゃないわよとなる。

 イギリス人男性のインテリアデザイナー、それを追ってくるフランス人女性を登場させて、台湾が文化的な植民地であることを表しており、ヤン監督はかなり自覚的である。
映画が時代に規定されるのは明かで、拝金主義の台頭、若者の上昇指向性、経済的な裏付けのない精神主義など、台湾では若者は戸惑いながらも、将来に何らかの可能性を信じている。
西洋では、豊かな社会が実現された後の空虚感が青春物の主題だが、台湾の青春物は淀んだ空気がなく健康的で、先進国とはすこし異次元的である。

 技術的な面では問題が多い。
心象描写のつもりだと思うが、無意味に長いカットが多く、全体を30分程度つめると良い。
またオールロケのようだが、背景になる街の人々を画面に入れており、その人たちの撮影されている意識が伝わってきてしまう。
エキストラを使って自然にみせて欲しかった。
それと何より問題は、レッドフィッシュを除いて全員が素人俳優で、ほとんど演技が出来てないことである。
上昇期にある社会では、優秀な才能は実業界に向かい、若い俳優が育たないのだろう。
1990年台湾映画。


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