タクミシネマ          クロッカーズ

クロッカーズ    スパイク・リー監督 

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クロッカーズ 【初回生産限定】 [DVD]
 殺人犯も黒人、被害者も黒人、それを捜査する刑事は白人。
あるレストランの黒人支配人殺害を、黒人の若い麻薬密売人ストライクが、黒人のボスから依頼される。
ストライクはおびえながらも、その殺人をしたかに物語は進行する。

 しかし、自首してきたのはストライクの兄ヴィクターである。
ヴィクターはストライクと違って、二人の子供を持つ、街でも評判のまじめな働き者。
この自首に不信をいだいた殺人課の刑事ハーベイ・カイテルは、真犯人はヴィクターの弟ストライクとみて、執ような捜査を開始する。

 麻薬課の刑事が、この殺人事件とは別に、麻薬密売人のチンピラたちを捜査している。
抜き打ち的に身体検査やら、尋問やらを繰り返しているが、チンピラを捕まえるだけでは、麻薬密売の元が根絶できない。
捜査情報をチンピラたちに流しながら、大物を捕まえようと捜査をしている。
映画は、麻薬捜査と殺人事件の捜査とが、だぶって進んでいく。

 まじめな黒人が殺人を犯しても、正当防衛だと主張すれば、陪審員はそれを信じて無罪になるだろう。
だから兄が身代わりに自首してきた、と刑事ハーベイ・カイテルは推理する。
殺人の背後には、麻薬密売の所場争いがあり、実際の殺人はボスに指示された弟がやったと、ハーベイ・カイテルは確信して捜査をすすめる。
刑事ハーベイ・カイテルとストライクを中心に話がすすむので、観客もいつの間にかストライクを犯人と信じる。
映画の興味は、自首してきた兄の偽証を、どう崩すかに集まっていく。

 黒人の犯罪が多いのは、黒人の希望をつんでしまう社会が悪いからで、その真の原因は奴隷として連れて来た歴史に由来するのは事実である。
希望のない黒人たちは、非合法と知りつつ麻薬の売人になり、手っとり早く小金を稼ぎたがる。
人種差別の桎梏から逃れるために、黒人の犯罪に対して、個人の犯罪として見ずに、O・J・シンプソン事件のように人種の犯罪と見やすい。

 アメリカは、所得や人種によって住む地域が違っており、低所得者が住む地域には黒人たちが集まる。
そこでは、まじめに学校へ行くことやいい成績をとることが、いじめの対象になり、子供たちを悪の道へ引きずり込む芽はいくらでもある。
まじめに働くことは、白人文化への迎合と見られ、黒人は働かないことを誇るようにすらなる。
そして、生活保護が彼らの生活を支える。

 犯人も黒人、被害者も黒人という黒人同士の事件には、白人刑事たちつまり白人社会は深入りしたがらない。
犯人が自首してくれば逮捕して、たいして捜査もせずに、一件解決とするのがアメリカの現状である。
黒人は黒人、白人は白人へと分けて、お互いに干渉しないようになりつつある。
黒人たちも自ら黒人社会を作り、黒人解放運動の成果が、黒人と白人の分離を生み出している。
しかしそれは、人種差別だとスパイク・リー監督はいう。

 メジャーな文化が優勢を誇るとき、マイナーな文化に属する人間は、マイナー性に執着する限り、社会的な階梯を上って裕福になることはできない。
もし裕福になろうとしたら、マイナー文化を捨てて、メジャーな人間がやっている方法を真似ざるを得ない。

 少数者は、自らの文化的な存在証明を持ったままでは、メジャーにはなれない。
裕福になる道は、それが不本意であろうとも、メジャーな人間を真似る以外にはない。
しかもそれには、メジャーな文化に属する人間たちの、二倍三倍のエネルギーを投入しなければ実現できない。

 刑事ハーベイ・カイテルは、麻薬の密売容疑でボスを逮捕しようとする麻薬課に代わって、殺人課でボスを逮捕する。
そして、ストライクとのあいだをさくために、密告したのはストライクだとボスに嘘を告げる。
しかし、事件は意外な方向に発展し、真犯人はヴィクターだと、母親が知らせる。
ボスの誤解が解けず、狙われる立場になったストライクが、ニューヨークを去るところで映画は終わる。

 差別の構造は、どこでも同じである。
例えば我が国でも、身体障害者はあたかも健常者とは異なった人種で、保護される存在であるかのように扱う。
障害者だって、いい奴もいれば悪い奴もいるし、障害者にだって様々な欲望がある。
にもかかわらず、身体障害者を健常者と同じように扱うと、健常者から差別だと言われるのである。

 人間はすべて同じ生き物であり、同じように扱うべきだし、人間を分離するのではなく混交させること、それが差別を解消するただ一つの道であると、この映画はいう。
黒人差別解消に向けて、スパイク・リー監督の良心からでた、祈りのような映画である。
1995年アメリカ映画。


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