タクミシネマ          アメリカン・プレジデント

 アメリカン プレジデント    ロブ・ライナー監督

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アメリカン・プレジデント [DVD]

 わが国でも最近の総理大臣たちは、かってに比べるとずっとおしゃれになった。
しかしそれでも、妻を失って孤閨をかこつ現職の総理大臣が恋愛するとは、信じられないのが現実である。
この映画は、個人の国アメリカならでは、の話である。

 日本の総理大臣だって、女性は好きだろうし、女性に好意を持つことはあるだろう。
けれども彼等が外部にむかって、「私は恋愛中です」と素直に表現するとは思えない。
また反対に、故スカルノ大統領のように、大ぴらに女好きを公言することもないだろう。
わが国の総理大臣が、ある女性を好きになったら、
もっと隠れて内密のうちに関係を作り、その関係が公表されることは決してないように思う。
むしろ、それが公表されたときは、悲しいけれど失脚の時だろう。

 わが国では、いい年齢に達した一人前の人間は、恋をしてはいけない雰囲気がある。
恋愛は、青春期の半人前の若者だけがするもので、
若い時代の恋愛期間が終わったら、あとは仕事に取り組むことが要求されているようだ。
そうしたわが国の背景を考えるとき、この映画は個人の確立とは何かを、考えさせてくれる。

 現職の大統領といえども、恋することは許される。
それがこの映画の結論だが、アメリカの現職大統領であるがゆえの困難も当然ある。
しかし、恋が成就するまでのプロセスは、現職の大統領といえども、それほど変わったものではない。
むしろ遠距離恋愛などのほうが、突発事件はたくさん発生するだろう。
アメリカ大統領の恋愛は、むしろ平凡ですらある。

 アメリカ映画では、たった一人を救助するために、
実に馬鹿らしくなるくらいに膨大な人やエネルギーが投入されることが多い。
一人の人間が救出されたあと、その彼が一生かかって実現する成果より、
救出に投じるもののほうが、はるかに大きいとすら思える。

 アメリカの効率重視の発想からいうと、古い車に手を入れながら乗り続けるより、
維持に手のかからない新車に乗り換えるほうを選ぶだろう。
そうとすれば、困難な状況では多大な手間とお金をかけて一人を助けるより、
見殺しにすることを選択したほうが効率的ではないか。
事実、ある国では地震で壊滅した都市を救出せず、見殺しにした例がある。
得るものが少ないので、救うことをあきらめたのである。
それも一つの政治的な選択なのだろう。

 この映画では、マイケル・ダグラス演じるアメリカ大統領が、女性に振られてしまう。
しかし、それを反省しながら、彼は実にさわやかな演説をする。
その要旨は、一人の女性との約束をやぶって、政策と交換したことが間違いだったというのである。
ここには、一人の命は地球よりも重いという、アメリカの苦渋に満ちた選択の歴史がある。
名もない一市民との約束より、政策立案者たちの練りに練った政策を、議会で通すほうがはるかに重要だろう。
その政策によって救われたり、影響を受ける人の数は、計り知れないものだからである。

 人間はすべて平等で、誰でも同じように大切にされると言ったとき、実は価値の混乱が始まった。
ここで、何をそして誰を大切にするのか、その基準がなくなった。
誰でも大切にされると言ったときには、実は誰も大切にしないと言っているに等しい。
そうしたなかで、一人一人の意見が大切にされる制度を、
かろうじて作り上げてきたのが、近代でありアメリカである。
誰が決めるのでもない、ただ普通の名もない多くの人たちの合意が、
その国の政治を動かすのだという約束ごとが、幻想でもいい、それしかないのだという決意を、この映画からは感じるのである。

 手軽に作られたラブ・コメディ。よくできたb級ラブ・ストーリイ。
こうした感想は、すべて的外れである。
むしろ実にまじめに作られたエンターテインメントである。
なかでも、大統領の一人娘の発言がとてもいい。
父親が、新たな女性を好きになることに好意的だし、
何を誉められると喜ぶかの女性心理を、男性たる父親に教える。
現実には指導力の低下など、問題の多いアメリカ大統領だが、
この映画を作ったアメリカ人たちは、大統領が大好きだということが感じられる。
豪華なキャスティングと入念に作られた精巧なセットを見るだけでも、この映画が手軽にできているとは思えない。
1995年アメリカ映画。


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