タクミシネマ           12モンキーズ

 12 モンキーズ    テリー・ギリアム監督 

 SF小説では、この程度の話しはいくらでもあるのだろうが、映画にはなかなかならなかった。
もちろん、時間を移動することは、現在の理論では不可能とされている。
だから、この話しの前提が、すでに絵空事ではあるのだが、それでも充分に見せてくれた。
映画は、ブルース・ウィリスが射殺されるところから始まる。
そして、最後にこのシーンへと戻って映画は終わる。
時間を行きつ戻りつしながら、最初のところへと戻ってくる筋の運びが非常にうまい。

 1996年に、動物愛護協会の狂った連中が、細菌を世界中にばらまく。
そのため、人類は99%が死滅し、残った1%が、地下で生活するという前提である。
その1%の人たちが、なぜ人間は死滅し、地下生活を余儀なくされたのか、それを探求するために調査者として犯罪者を、1996年に送り込む。
犯罪者は危険を犯すので、うまく調査ができると、特赦が得られるという交換条件である。
最初は1990年に送られてしまい、ほとんど成果があげられないが、1996に来るときの伏線が張られる。

 1990年のほうでは、時間をこえることはできておらず、未来から来た彼=ブルース・ウィリスは、狂人とされて精神病院に収容される。
精神分析の女医が、監督する。ところが女医は、彼の言っていることが正しいと感じ始める。
しかし、彼は突然消えてしまう。

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劇場パンフレットから

 ブルース・ウィリスは、再び1996年にやってくる。
そして、女医と遭遇する。人類の99%が、滅亡することは信じたくないから、女医もなかなか彼を信じない。
信と不信の間を揺れ動きながら、最後には信じざるを得なくなる。
細菌をばらまくために、飛行機に乗ろうとする犯人に気づいてもすでに遅く、彼は女医の目の前で警察官に射殺されてしまう。
犯人が細菌を撒くのは止めるられず、やはり99%が死滅する。
人々が信じている常識とは、本当に強いもので、人は現在を生きることに必死なのである。

 全体的には、とてもおもしろかったが、いくつか疑問がある。
1.動物愛護協会が、細菌をばらまく理由が判らない。犯罪の動機が不明である。
2.拘束されている人間が逃亡したときに、原因をもっと調査するはずである。
3.動物は生きていたが、この細菌は人間だけを襲うのだろうか。
このへんは説明不足である。

 世紀末に出現する映画であろう。
この映画のなかでは、アメリカは貧富の差が肥大し、街はいたるところでスラム化している。
人類は、はたして絶滅へすすんでいるのか否かは、誰にも判らない。
工業社会に入るときには、貧富の差が拡大し、没落した人がいたように、情報社会へはいるときに、同じ現象がおきても不思議ではない。

 情報社会への転換がうまく行かないと、せっかく入手した財産で、人類は自分の首を絞めることになりかねない。
論理が将来をすくうのだが、論理を信じる人は少なく、多くは現状からの感覚を信じている。
だから、対応はどうしても後手後手になる。

 時間を何度もこえていると、いつの間にか自分の位置が判らなくなり、どの次元が本当の自分だか判らなくなるのは、納得できる。
自己とは確固不変たるものではなく、状況のなかで、常に対象に自分を反射させて自己認識しているのだから、それが変わってしまえば自己認識が不安定になるのは必然である。

 ブラッド・ピットが狂人を演じて、うまかった。
それに対して、ブルース・ウィリスは毎度のことながら、演技というより地そのものである。
1995年のアメリカ映画


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