2008年の全体傾向と総評       匠 雅音   

  今年は61本の映画を見て、2つ星は4本でした。
アメリカ映画が3本、韓国映画が1本でした。
また、日本映画から久しぶりに2本も星付きがでました。
とくに「おくりびと」は、久々の本格派映画でした。

 アメリカ映画から話を始めます。
2008年に日本で公開された映画では、何といっても「ダーク ナイト」を取り上げるべきでしょう。
正悪の混濁する現代社会に、正義が苦しむ映画はいかにも今日的です。
映画は本来的に娯楽であるにもかかわらず、こんなに難しい映画がメジャーの作品として公開されるのは、とても驚きでした。
哲学的なこの難しい主題の映画に、アメリカ人たちが絶賛の声を送っているのも印象的です。 

 「バンテージ・ポイント」も難しい映画でしたが、映画の作り方が難しいのであって、主題として難しいのではなかった。
政治の世界の虚々実々の話を、うまく映画化した感じで、映画慣れしていないと付いていけないかも知れません。

 「告発のとき」はアメリカの良心といった映画で、星を2つつけました。
観客を拒否する映画というのは、映画のあり方自体が難しいスタンスだが、その困難さに良く挑戦していた。
もっとも、映画としてのできを考えると、星2つはちょっと点が甘いとは思う。

 「ラースと、その彼女 」は小品ですが、観念の妄想性をあつかって、鋭いものがありました。
愛情の真相をフェティシズムととらえ、物としての対象が人間関係のなかに投じられるとき、物も自立していくという指摘は、人間と物の境目が融溶しているさまを描いていました。
あり得ない話ではありますが、観念とはこの映画が描くようなものなのでしょう。

 「アメリカン・ギャングスター」と「アンダー カヴァー」が、同じ物語を描いていましたが、「アメリカン・ギャングスター」のほうに見応えがありました。
イースタン プロミス」もギャング映画ですが、途上国の家族愛が悪用されているのと、先進国の人間愛がからんで説得力のある映画に仕上がっていました。

 「エリザベス-U」は女性と政治を扱って見るものがあり、ケイト・ブランシェットの演技が光っていました。
オスカーをとった「ノー カントリー」は、主演を演じたハビエル・バルデムのキャスティングに尽きでしょう。
フィクサー」は、ヒロインになる女性が、女性の現代的な位置づけであり、やはり今日的な問題意識に貫かれています。
アウェイ・フロム・ハー」は哀しい映画です。
長寿化した先進国の問題を描いて、我がことのように感じました。

 「ワールド オブ ライズ 」「イントゥ ザ ワイルド」「ハプニング」「ジュノ」「ゼア ウィル ビー ブラッド」「大いなる陰謀」など現代的な主題をあつかって、それぞれに考えさせてくれました。
とくに「ジュノ」は「コドモのコドモ」と似た設定でありながら、日本とアメリカの違いを浮き出させてくれました。

 「かけひきは、恋のはじまり」「アイアン マン」「イーグル アイ」「ブロードウェイ♪」「ウォンテッド」「セックス アンド ザ シティ」「インディジョーンズW」「ラスヴェガスをぶっとばせ」「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」「団塊ボーイズ」など、ハリウッドお得意の娯楽作品も楽しかったです。

 「ラスト・コーション」は当サイトでは、とても問題の多い作品でした。
映画評もそうとう長く書いています。
 「悲しみが乾くまで」はスザンネ・ビアがアメリカにわたって撮った映画でしたが、本国での小さな映画のほうが、主題がシャープでした。
デンマークとハリウッドではシステムが違うので、戸惑ったのでしょう。
しかし、力のある人ですから、次回作に期待しています。

 2つ星をつけた「家族の誕生」は、出るべくして出た韓国映画でした。旧来の家族のつながりが、我が国以上に強い韓国でも、家族の形が変わっていることが自覚されているのでしょう。ムン・ソリのでる映画は、注目して良いのではないでしょうか。先進国と途上国の相克という意味では、「その名にちなんで」も教えられることの多い映画でした。

絶望的なフランス映画界から、「パリ、恋人たちの2日間」がでてきたことは、当サイトの予測が当たったように思います。フランスの映画作りの組織は、もう新しい物を作りだす力がないように思います。

ハッピー フライト」「コドモのコドモ」「トウキョウソナタ」「アキレスと亀」「おくりびと」「崖の上のポニョ」「アメリカばんざい」「ザ・マジック・アワー」「パーク アンド ラブホテル」「接吻」と、10本の日本映画を見ました。そのなかで、「おくりびと」と「コドモのコドモ」に星をつけました。「おくりびと」は衆目の一致するところでしょうが、「コドモのコドモ」は近代を扱っていると見たので星をつけたのですが、巷間では子供の妊娠・出産というほうに話題がいったようです。平均点に到達している「アキレスと亀」とか「ザ・マジック・アワー」があるなかで、「トウキョウソナタ」とか「接吻」といった独善的な映画が跋扈しているのも、日本的な映画状況でしょう。(2009.1.5) 

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